はやぶさ2#の旅路
2020年12月、小惑星リュウグウの試料が入ったカプセルを地球に届けた「はやぶさ2」は、残った燃料でそのまま次の旅に出ました。拡張ミッション「はやぶさ2#」です。2026年7月には小惑星トリフネのそばを秒速5.3kmで通り抜け、表面から約400mという近さで撮影しました。このあと地球のそばを2回通って向きを変え、2031年に直径約11mの小さな小惑星1998 KY26に着く予定です。
1998 KY26への11年の航路
ORBIT太陽を上から見た図です。赤い線がはやぶさ2の航路、点線が地球・トリフネ・1998 KY26の軌道です。地球を出たあと太陽のまわりを約6周してトリフネと出会い、地球に戻って向きを変えてから1998 KY26へ向かいます。2027年からあとは計画をもとにした推定です。右の出来事を押すと、その日付に移動します。
トリフネのフライバイ
FLYBYトリフネは長さ約840mの細長い小惑星です。はやぶさ2は、中心から約744mのところを秒速約5.3km(時速約1万9000km)で通り過ぎました。ふつうの小惑星フライバイは数百〜数千km離れて行うので、けた違いの近さです。速すぎて止まれないため、狙った点へ正確に通すには、直前まで軌道を細かく修正する必要がありました。
| 軌道修正 | 日時(日本時間) | 目標点までのずれ |
|---|---|---|
| TCM-B | 7月1日 14時50分 | 23km → 9.58km |
| TCM-C | 7月4日 17時50分 | 9.58km → 2.14km |
| TCM-D | 7月5日 15時27分 | 2.14km → 950m |
| 最接近 | 7月5日 18時30分00秒 | 目標点から約120m |
TCM-Dのあとは、探査機が自分のカメラでトリフネを見ながら航法を続けました。トリフネの位置の誤差は、フライバイ前の約50kmから、フライバイ後は約0.8kmまで絞り込まれています。最接近の約4秒前と3秒前には、レーザー高度計(LIDAR)でトリフネまでの距離約20kmと約15kmを測りました。搭載した4つの観測装置すべてでデータが取れています。
次の目的地 1998 KY26
TARGET1998 KY26は、1998年に地球の近くを通ったときに見つかった小惑星です。選ばれたときは直径約30m・自転約10分とされていましたが、2024年に地球へ近づいたときの観測で、直径約11m、自転は約5分21秒と、もっと小さく速く回っていることが分かりました(2025年9月発表)。表面の重力より自転の遠心力の方が大きく、探査機が降りるのはとても難しい相手です。
はやぶさ2#の旅
TIMELINE地球を離れ、拡張ミッションへ
カプセルを切り離した探査機本体は、軌道を修正して地球のそばを通り過ぎ、そのまま太陽を回る旅に戻りました。イオンエンジンの燃料(キセノン)は、半分ほど残っていました。
2001 CC21が「トリフネ」に
名前の募集を経て選ばれた「トリフネ」が、国際天文学連合に認められました。鳥のように速く、岩のように安定して進む、日本神話の神さまとその船「天鳥船(あめのとりふね)」にちなんだ名前です。
トリフネを初めて撮影
約700万km離れたところから、望遠の航法カメラでトリフネをとらえました。小惑星は暗いので、見えるようになるのは出会う直前です。
トリフネのそばを通過
中心から約744m、表面から約400mを秒速約5.3kmで通過しました。太陽系の天体へのフライバイとして記録的な近さで、通過の途中でレーザーで距離を測ったのは世界で初めてです。
イオンエンジンの運転を再開
次の目標である地球スウィングバイに向けて、イオンエンジンの運転を始めました。
イオンエンジンの不具合
4台のうち、ただ1台正常に動いていたイオンエンジンが不調になりました。初代はやぶさと同じように、別々のエンジンの使える部分を組み合わせる「クロス運転」で、早ければ10月下旬に運転を再開する計画と報じられています(2026年10月時点)。この先の予定への影響は検討中です。
地球スウィングバイ1回目
地球の重力で軌道の向きを変えます。この記事の計算では、トリフネを通った速度のまま進むと12月5日に地球へ戻り、上空約1万800kmを通る形になりました。
地球スウィングバイ2回目
半年後にもう一度地球のそばを通ります。計算では、1回目で地球の軌道に対して約10度傾いた軌道に入り、ちょうど半周して戻ってくる形です(計算では6月3日、上空約1,240km)。
1998 KY26に到着
太陽のまわりを2周して1998 KY26に追いつき、イオンエンジンで速度を合わせて到着する予定です。直径約11mの小惑星を近くから調べ、着陸にも挑戦したいとされています。
なぜこの旅をするのか
WHY地球を守る技術の練習
地球にぶつかるおそれのある小惑星の多くは、数十m〜数百mの小さなものです。高速ですれ違いながら近くで観測する技術や、小さく速く回る小惑星に近づく技術は、いざというときの備え(プラネタリー・ディフェンス)につながります。
残った燃料で行ける場所
1998 KY26は、約1万8000個の候補の中から、残りの燃料で行けて、10年ほどの旅で探査機に無理がかからないものとして選ばれました。地球スウィングバイを2回使うことで、燃料を節約しています。
長く飛ばし続ける
はやぶさ2は2014年の打ち上げから10年以上が過ぎ、当初の計画を大きく超えて飛んでいます。古くなった機器をやりくりしながら運用を続けること自体が、深い宇宙を長く飛ぶための経験になります。
この記事の計算
METHOD- 航路のつなぎ方
- 出来事の日時を「エンジンを使わない軌道」(ランベール問題の解)でつなぎ、イオンエンジンの働きはなめらかな補正で置き換えました。 地球〜トリフネは太陽のまわりを約6周する解で、出発時の地球に対する速さは秒速4.35km(カプセルの突入速度から逆算した約4.7kmに近い値)
- トリフネの通過
- トリフネに対する速さを発表の秒速5.3kmに合わせました。 補正の加速度は最大約0.00003m/s²で、はやぶさ2のイオンエンジン(推力最大28mN、約600kg)で出せる範囲
- 2027年以降の日付
- スウィングバイの前後で地球に対する速さがそろうように、日付を計算で求めました。 1回目 2027年12月5日(秒速5.32km、高度約1万800km)、2回目 2028年6月3日(秒速5.17km、高度約1,240km)、到着 2031年7月10日。発表は月までなので、実際の日付とは違います
- 到着の形
- 1998 KY26の太陽側5kmの地点で、速度を合わせて止まる形にしました(仮定)。 補正前の相対速度は秒速0.76km
- 小惑星の位置
- JPLの小天体データベースの軌道要素から計算しました。 惑星の重力による乱れは含めていません
出典
SOURCES- はやぶさ2 記者説明会資料 2026年7月30日(JAXA)最接近の時刻・距離・速さ、トリフネの大きさ、軌道修正、LIDAR、今後の予定
- Hayabusa2(JAXA宇宙科学研究所)拡張ミッションの予定、1998 KY26、残りの燃料
- Hayabusa2♯: high-speed flyby of the mini-asteroid Torifune(DLR)初撮影、使ったイオンエンジン、2027年12月の地球スウィングバイ
- はやぶさ2、トリフネを高速通過し近接観測・画像取得に成功(SPACE CONNECT)フライバイの概要、トリフネの種類
- はやぶさ2 記者説明会資料 2020年12月6日(JAXA)カプセル分離後の探査機の地球最接近
- はやぶさ2の次なる挑戦の場所は小惑星「1998 KY26」(マイナビニュース)拡張ミッションの計画、候補の選び方
- Hayabusa2's final target is 3 times smaller than we thought(Eos)1998 KY26の大きさと自転
- 「はやぶさ2」エンジン不調(熊本日日新聞・共同通信)2026年8月のイオンエンジンの不具合
- Japan's asteroid probe lost its last working engine(Gizmodo)クロス運転の計画
- 98943 Torifune(Wikipedia)名前の由来、発見
- JPL Small-Body Databaseトリフネ・1998 KY26の軌道要素
- Astronomy Engine地球の位置計算