深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」の計画
DESTINY+(デスティニー・プラス)は、JAXA宇宙科学研究所が開発している探査機です。イオンエンジンで深宇宙を飛ぶ技術と、天体のそばを高速で通り抜けながら撮影する技術を確かめ、ふたご座流星群のもとになっている小惑星ファエトンを調べます。2028年度にH3ロケットで、欧州と日本のアポフィス探査機RAMSES(ラムセス)と一緒に打ち上げる予定です。まだ飛んでいないので、この記事では発表されている計画と、それをもとに計算した「予定の航路」を紹介します。
予定の航路
PLANNED ROUTE太陽を上から見た図です。赤い線がDESTINY+の予定の航路、点線は地球・アポフィス・ファエトンの軌道です。発表されているのは「2028年度に打ち上げ」「2029年2月にアポフィス」「2030年度にファエトン」という時期までなので、日付と航路は計算で決めた推定です。計算では、1年後に地球へ戻ってきてスウィングバイで向きを変え、太陽をもう1周してファエトンとすれ違います。
ふたご座流星群のもと、ファエトン
TARGET毎年12月14日ごろに見ごろになるふたご座流星群は、小惑星ファエトンがまき散らしたちりの粒が、地球の大気に飛び込んで光るものと考えられています。流星群のもとはふつう彗星ですが、ファエトンは見た目は小惑星です。太陽の半径の約30倍(約2100万km)まで太陽に近づき、そのころに少し明るくなって小さな尾が見えたこともあります。どのようにちりを出しているのかを、そばを通り抜けながら撮影し、ちりを直接受け止めて調べるのがDESTINY+の科学の目的です。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 大きさ | 直径 約5〜6km(約6.1×4.4km) |
| 軌道 | 太陽から0.14〜2.40AU、1.43年(約524日)で1周。地球の軌道を横切る |
| 種類 | 炭素を多く含む、青っぽい色の小惑星(B型) |
| 流星群 | ふたご座流星群のもと。仲間とみられる小惑星 2005 UD もある |
| 予定のすれ違い | 2030年度、相対速度 秒速約36km(計算では2030年11月12日、秒速35.9km) |
| そのときの場所 | 太陽から約1.0AU、地球から約0.56AU(計算)。地球が毎年12月14日ごろに通る場所から約480万km |
アポフィスとRAMSES
APOPHISアポフィスは直径約340mの小惑星で、2029年4月13日(日本時間14日の朝)に、静止衛星より内側の地表から約3万2000kmを通ります。これほど大きな小惑星がここまで近づくのはまれなことで、地球の引力で回り方や表面のようすが変わるかもしれません。欧州のESAと日本が作るRAMSESは、2026年11月に二重小惑星ディディモスへ着くHeraの設計を受け継いだ探査機で、DESTINY+と同じロケットで出発し、アポフィスに寄り添ってこの瞬間を間近で見届けます。DESTINY+は2〜3週間先に、アポフィスのそばを通り抜けながら撮影する予定です。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 大きさ | 直径 約340m(約450×170mの細長い形)、約11日で1回転 |
| 地球への最接近 | 2029年4月14日 6時46分(日本時間)、地球の中心から38,011km(JPL Horizons で計算) |
| 最接近の後 | 地球の引力で軌道が変わる(1年弱で1周 → 約1.16年で1周)。図の「2029年4月より前の軌道」ボタンで比べられる |
| RAMSES | ESAが作り、日本が太陽電池パドルと熱赤外カメラ、打ち上げを担当。2029年2月に到着し、最接近の前後を観測 |
| DESTINY+ | 2029年2月にフライバイ(RAMSESの到着の2〜3週間前、計算では2月2日・秒速1.6km)。ファエトンへの予行演習も兼ねる |
計画の変わり方
HISTORYDESTINY+は、もとは小型のイプシロンロケットで2024年度に打ち上げる計画でした。ロケットの事故が続いて打ち上げがH3に変わり、それに合わせて飛び方も大きく変わりました。
| 項目 | 以前の計画 | 今の計画 |
|---|---|---|
| ロケット | イプシロンS(+キックステージ) | H3(24形態)、RAMSESと相乗り |
| 打ち上げ | 2024年度 → 2025年度 | 2028年度 |
| 地球からの出方 | 地球を回る軌道に入り、イオンエンジンで時間をかけて高度を上げ、月スウィングバイで地球を離れる | ロケットで直接、太陽を回る軌道へ |
| 寄る天体 | ファエトン(2005 UD も候補) | アポフィス → ファエトン → その後も毎年1つずつ小天体(2024 YR4 も検討) |
| 技術の目標 | らせん状の軌道上昇、月スウィングバイ、フライバイ | 地球スウィングバイを使って、約1年ごとに次々と小天体をフライバイ |
イプシロンロケット6号機の打ち上げ失敗
イプシロンを改良したイプシロンSの開発に影響しました。
イプシロンSの第2段モーターの試験で爆発
能代ロケット実験場の真空燃焼試験棟が焼けて使えなくなり、DESTINY+の打ち上げは2025年度に変わりました。
種子島での試験で再び爆発
第2段モーターの地上燃焼試験で、ふたたび爆発が起きました。
H3ロケットへ、2028年度へ
イプシロンSの計画に合わせると2027年1月までに打ち上げる必要があり、間に合わないため、ロケットをH3に変えて2028年度の打ち上げとしました。ファエトンに着く時期(2030年度)は変わりません。
計画変更の審査
H3でRAMSESと相乗りし、惑星間軌道へ直接投入する形になりました。らせん状の軌道上昇をやめたかわりに、いくつもの天体を次々とフライバイすることを目標に加えました。
ESAとJAXAがRAMSESの協力の取り決めに署名
惑星防衛(地球に近づく小天体への備え)の協力の覚書とあわせて署名しました。RAMSESとDESTINY+の同時打ち上げに向けて開発が進んでいます。
確かめる技術
TECHNOLOGYイオンエンジンで深宇宙を飛ぶ
はやぶさ・はやぶさ2と同じ系統の「μ10(ミューテン)」イオンエンジンを4台積み、合わせて秒速4km分の速度の変化を生み出します。小さな力で長い時間加速し続けて、軌道を少しずつ思いどおりに変えます。
地球スウィングバイで次々と
太陽を約1年で回る軌道は、1年後にまた地球のそばへ戻ってきます。そのたびに地球の重力で向きを変えれば、少ない燃料で別の小天体へ向かえます。この記事の計算でも、イオンエンジンでの調整は合計秒速0.07kmほどで、アポフィスからファエトンへつながりました。
高速フライバイで撮り続ける
秒速36kmですれ違う天体を見失わないよう、鏡を動かして天体を追いかける望遠カメラ(TCAP)で撮影します。最接近のころは、カメラの向きを1秒に約4度ずつ変え続ける必要があります。
この記事の計算
METHOD- 計算のしかた
- 太陽の重力だけで飛ぶとして、区間ごとに2点を結ぶ軌道(ランベール解)でつなぎました。アポフィスとファエトンの位置はJPL Horizons(2026年10月25日に取得)の値、地球の位置はAstronomy Engine。 JAXAの実際の航路とは違う可能性があります
- 打ち上げ
- 2028年5月10日0時(世界時)と仮定しました。RAMSESの打ち上げ時期(2028年4月中旬〜5月中旬)の中です。 地球を離れる速さは秒速3.61km。同じ日に出発して2029年2月中旬にアポフィスに着く軌道(RAMSESに相当)も、ほぼ同じ速さ(秒速3.5km)でした
- アポフィス
- 2029年2月2日に通過(相対速度 秒速1.58km)。 発表の「RAMSESの到着の2〜3週間前」に合わせて、2月下旬までの範囲で調整の少ない日を選んだ。通過の距離は発表されていないので描いていない
- 地球スウィングバイ
- 2029年5月12日、地表から約4万2000kmを通過(計算)。 地球に対する速さ 秒速3.57km、向きを46度曲げる
- ファエトン
- 2030年11月12日に通過、相対速度 秒速35.9km(発表「約36km/s」)。 アポフィスの後の調整は合計秒速0.07km。スウィングバイの後に太陽を1周する解
- アポフィスの軌道
- 2029年4月13日の最接近の前と後で、JPL Horizons の値から別々に計算しました。
諸元
SPECIFICATIONS- 名称
- 深宇宙探査技術実証機 DESTINY+(デスティニー・プラス) Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage with Phaethon fLyby and dUst Science の略
- 開発
- JAXA宇宙科学研究所 望遠カメラは千葉工業大学 惑星探査研究センター、ダストアナライザはドイツ(DLR・シュツットガルト大学)
- 打ち上げ
- 2028年度(予定) 種子島宇宙センター、H3ロケット(24形態)、RAMSESと相乗り
- 質量
- 約500kg(推進剤を含む)
- 推進
- μ10イオンエンジン 4台 速度の変化 秒速4km分、最大推力40mN、比推力3000秒
- 電源
- 太陽電池パドル(設計寿命の終わりで2100W以上)
- 観測装置
- 追尾望遠カメラ TCAP、マルチバンドカメラ MCAP、ダストアナライザ DDA
- 設計寿命
- 6.2年
出典
SOURCES- 深宇宙探査技術実証機(DESTINY⁺)の開発状況について(文部科学省 宇宙開発利用部会、2025年8月22日)打ち上げ時期、延期の経緯、計画の変更、諸元、相対速度
- RAMSESとDESTINY⁺のApophis探査について(内閣府 宇宙政策委員会、2026年4月23日)相乗りの形態、アポフィスのフライバイの時期、アポフィスの諸元
- 打上げ年度とロケットの変更(DESTINY+ 公式サイト、2024年10月)H3への変更の理由、ファエトンの時期
- DESTINY+(千葉工業大学 惑星探査研究センター)観測装置の役割、目的
- プラネタリーディフェンス(JAXA宇宙科学研究所)アポフィスの最接近の距離と大きさ
- 日欧が“地球防衛”でタッグ(sorae、2026年5月)ESAとJAXAの署名、日本の分担
- Ramses (spacecraft)(Wikipedia)RAMSESの打ち上げ時期、到着の時期
- DESTINY+(Wikipedia)以前の計画の最接近の距離
- 3200 Phaethon(Wikipedia)ファエトンの大きさ、増光と尾
- JPL Horizonsアポフィス・ファエトンの位置と速度、アポフィスの最接近
- Astronomy Engine地球の位置