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PROCYON / MICRO SPACECRAFT

超小型深宇宙探査機「PROCYON」の旅路

PROCYON(プロキオン)は、東京大学とJAXAが約1年で作った、重さ65kgの探査機です。2014年12月、小惑星探査機「はやぶさ2」と同じロケットで打ち上げられ、地球の重力圏を離れて太陽を回る「深宇宙」へ出ました。それまで数百kg〜数トンあった深宇宙探査機を、65kgでも作れることを示した世界で初めての超小型深宇宙探査機です。目標は、二つの小天体が回り合う小惑星2000 DP107のそばを高速で通り抜けて撮影することでしたが、イオンエンジンが止まってしまい、その計画はかないませんでした。

打ち上げ 2014-12-03 13:22 JST ロケット H-IIA 26号機 質量 約65 kg 大きさ 約63×55×55 cm

太陽を1周して、地球のそばへ

ORBIT

太陽を上から見た図です。赤い線がPROCYONの航路、点線が地球と2000 DP107の軌道です。PROCYONは太陽を約1年で回る軌道に入り、1年後の2015年12月に地球のそばへ戻ってきました。計画では、イオンエンジンで軌道を少しずつ変えておき、このとき地球の上空約50万kmを通るスウィングバイで、2000 DP107へ向かう航路(黄色の点線)に乗るはずでした。

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PROCYONの航路予定の航路(飛んでいない)
位置は概算 · 予定の航路は計算による再現

目指した二重小惑星 2000 DP107

TARGET

2000 DP107は、2000年に見つかった地球に近づく小惑星で、レーダーの観測で初めて「衛星を持つ小惑星」とわかった天体です。PROCYONは2016年5月12日に、その本体から約30kmのところを秒速約10kmで通り抜けながら、望遠カメラで撮影する計画でした。秒速10kmですれ違う天体を見失わずに撮り続けるには、探査機の向きを素早く正確に回す技術が必要です。

約2.6km 本体 約860m 衛星 約300m 1.76日で1周 1km 予定の通過は 本体から約30km (衛星の軌道の約11倍外側)
縮尺どおりの模式図です。本体の形は、レーダーで調べたところ球に近い形です。
項目値
本体の大きさ直径 約860m(約990×940×960m)、約2.8時間で1回転
衛星直径 約300m、本体から約2.6kmのところを1.76日で1周
軌道太陽から0.85〜1.88AU、1.6年で1周。地球の軌道に近づく
予定の通過2016年5月12日、本体から約30km、秒速約10km(計算では10.7km)
そのときの地球との距離約0.45AU(約6800万km、計算)
65kgはやぶさ2(約600kg)のおよそ10分の1
約1年計画の採用(2013年9月)から打ち上げまで
330µNイオンエンジンの力。1円玉の重さの約30分の1
約290万km2015年12月に地球のそばを通った距離(計算)。スウィングバイには約50万kmまで近づく必要があった

確かめたこと、できなかったこと

RESULTS
目標時期結果
超小型の探査機の基本の技術2014年12月〜電源、通信、姿勢と軌道の制御など、深宇宙で探査機に必要な機能が65kgでも働くことを確かめた(ノミナルミッション達成)
地球のジオコロナの撮影2015年1月約1500万km離れたところから、地球を包む水素の層の全体を初めて撮影。24万km以上(地球の半径の約38倍)まで広がり、黄道の北と南で対称だとわかった
電波で位置を正確に測る実験2015年はやぶさ2とPROCYONの2機を同時に使う測定など、新しいやり方を世界で初めて試した
イオンエンジンでの軌道変更2015年2〜3月2月22日に運転を始めたが、3月10日に止まり、再び動かなかった。2枚の電極のすき間に金属の小さなかけらが挟まり、ショートしたとみられる
2000 DP107のフライバイ2016年5月(予定)地球スウィングバイに必要な軌道に変えられず、2015年5月に断念
67P彗星の観測2015年9月欧州のロゼッタが調べていた彗星の水素の雲の全体を撮影し、出している水の量を求めた。超小型深宇宙探査機の初めての科学成果

PROCYONの旅

TIMELINE
  1. はやぶさ2と一緒に打ち上げ

    種子島宇宙センターからH-IIAロケット26号機で、はやぶさ2、しんえん2、ARTSAT2-DESPATCHと一緒に打ち上げられました。打ち上げの2時間2分後、高度約6,000kmで最後に切り離され、20時51分に電波が届いて、予定の軌道に入ったことがわかりました。

  2. 地球のジオコロナの全体を撮影

    積んでいたライマンアルファ線のカメラLAICAで、約1500万km離れたところから地球を包む水素の層を撮りました。アポロ16号が1972年に月面から撮って以来の、ジオコロナの全体像です。

  3. イオンエンジンが止まる

    2月22日から、予定より1か月半遅れて運転を始めたイオンエンジンが、運転を止めた数時間後から動かなくなりました。熱を加える、回転させる、高い電圧をかけるなどの方法で復旧を試みました。

  4. 小惑星フライバイの断念

    このままでは地球に300万km弱までしか近づけず、スウィングバイに必要な約50万km以内に入れないため、2000 DP107へのフライバイをあきらめると発表しました。ほかに近づける小惑星も見つかりませんでした。

  5. 67P彗星を撮影

    太陽に最も近づいたばかりの67P(チュリュモフ・ゲラシメンコ)彗星の、水素の雲の全体をLAICAで撮影しました。彗星のすぐそばにいたロゼッタには撮れない、外から見た全体像です。

  6. 地球への再接近と、通信の途絶

    地球と月を撮りながら、地球の外側約300万kmを通りました。同じ日には、はやぶさ2が地球スウィングバイをしています。この日の運用のあと、原因がわからないまま電波が届かなくなり、2016年3月まで呼びかけを続けました。

  7. プロジェクトの終わりと、その先へ

    プロジェクトは審査を経て終わり、2017年には「世界初の超小型深宇宙探査機の研究」が文部科学大臣表彰を受けました。経験は、東京大学の超小型探査機の拠点を通じて、アルテミスIに相乗りしたEQUULEUSなどに引き継がれています。

小さくても深宇宙へ

HOW
01

相乗りで深宇宙へ

地球の重力圏を出るには、ロケットで秒速11km以上まで加速する必要があります。PROCYONは、はやぶさ2を打ち上げるロケットの空きを使い、同じ速さをもらって深宇宙へ出ました。行き先を自分で決められないかわりに、打ち上げの費用をおさえられます。

02

キセノン1つで2つの役目

2.5kgのキセノンを、軌道を変えるイオンエンジンと、向きを変える小さなガスの噴射口の両方で使う作りにして、軽く小さくまとめました。イオンエンジンは、電子レンジと同じマイクロ波でキセノンをプラズマにして、電気の力で噴き出します。

03

地球スウィングバイで小惑星へ

打ち上げで入った「太陽を1年で回る軌道」は、1年後に地球のそばへ戻ってきます。そのとき地球のどこを通るかをイオンエンジンで少しずつ合わせておけば、地球の重力で軌道を曲げて別の小惑星へ向かえます。はやぶさ2も同じ日に、同じ考え方で地球スウィングバイをしました。

同じロケットで打ち上げられたはやぶさ2はリュウグウに着き、試料を地球へ届けました。あとに続いた超小型探査機はEQUULEUS(エクレウス)で紹介しています。

この記事の計算

METHOD
計算のしかた
太陽・地球・月・金星・火星・木星の重力を受けて飛ぶとして数値計算しました(位置は Astronomy Engine)。 光の圧力と、2015年2〜3月のイオンエンジンの運転(推定で秒速数m)は含めていません
打ち上げ後の軌道
分離のときの高さ(6,068km)と速さ(秒速9.2km)から、地球を離れるときの速さを秒速4.54kmとしました。向きは発表されていないので、「2015年12月3日に地球から300万km弱を通る」ように選びました。 計算では2015年12月3日15時50分(世界時)に約290万km。2015年1月9日の地球からの距離は1645万km(発表 1500万km以上)。太陽から0.85〜1.16AU、周期366日。北側を通る別の解もある
予定の航路
2015年12月3日の地球から、2016年5月12日12時(世界時、時刻は仮定)の2000 DP107までを、太陽の重力だけの軌道(ランベール解)でつなぎ、地球の上空約50万kmの通過と小惑星の30kmの通過は形だけ合わせました。 地球を離れる速さは秒速4.52km(PROCYONが打ち上げで得た速さとほぼ同じ)、小惑星との相対速度は秒速10.7km
2000 DP107・67P彗星
JPL の軌道要素から計算しました。

諸元

SPECIFICATIONS
名称
超小型深宇宙探査機 PROCYON(プロキオン) PRoximate Object Close flYby with Optical Navigation の略
開発・運用
東京大学、JAXA宇宙科学研究所 東京理科大学、北海道大学、明星大学、立教大学などが協力
打ち上げ
2014年12月3日 13時22分04秒(日本時間) 種子島宇宙センター、H-IIAロケット26号機(はやぶさ2の相乗り)
形と質量
約63×55×55cm、約65kg(燃料を含め約67kg)
推進
マイクロ波放電式イオンエンジン(推力 約300µN、比推力 約1000秒)と、ガスの噴射口 キセノン2.5kgを共用
観測装置
ライマンアルファ線カメラ LAICA、望遠カメラ(光学航法とフライバイ撮影用)
運用
2014年12月3日〜2015年12月3日 その後、通信は回復しなかった

出典

SOURCES

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