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EQUULEUS / 6U CUBESAT

超小型探査機「EQUULEUS」の旅路

2022年11月、NASAの新しい大型ロケットSLSの初号機(アルテミスI)に、10機の超小型探査機が相乗りしました。そのうちの1機、東京大学とJAXAが作った「EQUULEUS(エクレウス)」は、重さ10.5kg・大きさ10×20×30cmの「6Uキューブサット」です。目指したのは、地球と月の重力がつり合う点のひとつで、月の裏側の約6万km先にある「地球-月系の第2ラグランジュ点(EML2)」。水を蒸発させて噴く推進機と、月と太陽の重力を組み合わせて、わずかな燃料でそこへ向かう航路を実際に飛びました。

打ち上げ 2022-11-16 15:47 JST ロケット SLS 初号機(アルテミスI) 質量 10.5 kg 最後の正常な通信 2023-05-17

地球と月のまわりの3つの場面

ORBIT

地球を中心に、太陽がいつも左にくるように回しながら見た図です(地球の公転に合わせて図ごと回しています)。点線が月の軌道です。線は、EQUULEUSの運用チームが公開した実際の軌道データです(③の通信が途絶えたあとだけは計算)。

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①②は運用チームの軌道データ · 図は黄道面への投影

水の推進機で動かした14回

MANEUVERS

EQUULEUSは、半年で14回、推進機を噴きました。大きな軌道変更(DV)が3回、細かい軌道修正(TCM)が11回で、合わせても秒速約18mです。燃料は水1.2kgだけでした。

運用日時(日本時間)速度の変化
DV12022年11月18日 8時15分秒速6.48m月のそばを通る高さを決め、地球と月のまわりにとどまる航路へ
TCM12022年11月20日 10時45分秒速0.87m
TCM22022年11月23日 9時30分秒速0.20m
TCM32022年11月28日 1時30分秒速約0.07m
TCM42022年12月10日 4時30分秒速約0.12m
TCM52022年12月16日 6時00分秒速約0.09m
TCM62022年12月24日 5時50分秒速0.11m
DV22023年2月4日 3時35分秒速2.02m月と太陽の重力を使う航路の形を整える
TCM72023年2月8日 3時35分秒速0.12m
DV32023年2月28日 1時35分秒速4.86mEML2へ向かう航路の形を整える
TCM82023年3月17日 0時35分秒速1.97m
TCM92023年3月31日 0時35分秒速約0.48m
TCM102023年4月13日 20時35分秒速約0.61m
TCM112023年4月27日 23時05分秒速約0.07m

数字は運用チームの論文(2026年)の値です。「約」を付けたものは論文に載っていないため、公開された軌道データの噴射の前後の差から計算しました(計算の合計は秒速18.4m、論文の合計は18.12m)。

10.5kg打ち上げ時の重さ。水の燃料1.22kgを含む
秒速18.1m14回の噴射で変えた速さの合計(論文の値)
約5,000km1回目の月フライバイで通った、月面からの高さ
約6か月打ち上げから、最後に正常に通信できた日まで

EQUULEUSの旅

TIMELINE
  1. アルテミスIで打ち上げ

    アメリカ・フロリダのケネディ宇宙センターから、SLS初号機で無人のオリオン宇宙船と一緒に打ち上げられました。19時27分ごろ、月へ向かう軌道でロケットの上段から切り離され、22時50分に正常に動いていることが確かめられました。一緒に分離された日本のOMOTENASHIは、電波が安定せず月への着陸をあきらめています。

  2. 最初の軌道変更 DV1

    そのままでは月のすぐそばを通って太陽を回る軌道へ飛び出してしまうため、秒速6.48mの噴射で月を通る高さを変え、地球と月のまわりにとどまる航路に入りました。水を使う推進機で、地球の低い軌道より遠くで軌道を変えたのは世界で初めてです。

  3. 1回目の月フライバイ

    月の裏側の上空約5,000kmを通りました。オリオン宇宙船が月の上空130kmを通った約4時間後です。高度5,550kmから、月の裏側の昼と夜の境目を撮影しました。

  4. 地球と月のまわりをめぐる

    地球から最大約68万kmまで離れては戻る大きなループを描きながら、12月18日と3月10日に月から約5万kmのところを通り、2月4日と28日に軌道変更(DV2・DV3)を行いました。太陽の重力も使って、少しずつEML2へ向かう形に整えていきます。2月には、地球に近づいたズィー・ティー・エフ彗星を月面衝突閃光カメラで撮影しました。

  5. 地球のプラズマ圏を横から撮影

    極端紫外線カメラPHOENIXが、地球を取り巻くヘリウムイオンの層(プラズマ圏)を、外側から横向きにまとめて撮りました。地磁気が乱れた6日には、プラズマ圏が4日より縮んでいたことがわかりました(2025年に論文で発表)。

  6. 通信が途絶える

    16日まで正常だった電波が、美笹局で受信できなくなりました。この時点で、地球と月のあいだでの航法・誘導・制御と、プラズマ圏の撮影という主な目的は達成していました(フルサクセス)。

  7. 大型望遠鏡が探査機をとらえる

    最後に地球へ近づいたとき、すばる望遠鏡やせいめい望遠鏡、アメリカのローウェル天文台が、6万km以上離れた10.5kgの探査機の光をとらえました。約76秒ごとの明るさの変化から、制御を失ってゆっくり回っていると考えられています。

  8. 復旧運用の終わり

    太陽電池に日が当たって電力が戻る時期を予想しながら呼びかけを続けましたが、位置の予測の誤差が大きくなり、復旧運用は終えられました。EML2への到着は2023年末の予定でした。

小さな探査機で月の向こうへ

HOW
01

水で進む推進機 AQUARIUS

タンクの水を、通信機などから出る熱も使って温め、蒸気にして噴きます。燃えたり爆発したりしない水は、ロケットに相乗りする小さな探査機でも安全に積めます。推力は約4.9mN(1円玉の重さの半分ほど)で、ゆっくり噴いて速さを変えます。開発した東京大学の研究室からは、水の推進機の会社も生まれました。

02

月と太陽の重力を借りる

燃料が少ないので、月のそばを通るたびに月の重力で軌道を曲げ、地球から遠く離れたところでは太陽の重力で軌道の形を変えます。小さな噴射で航路の「入口」を選び、あとは重力に運んでもらうやり方で、ひてんやSLIMも使った考え方です。

03

EML2から見るはずだったもの

EML2は月の裏側の先にあり、地球と月の両方を外から見渡せます。月面衝突閃光カメラDELPHINUSで月の裏側に隕石がぶつかる光を数え、PHOENIXで地球のプラズマ圏の全体を撮り、ちりの検出器CLOTHで地球と月のあいだのちりを数える計画でした。

超小型の深宇宙探査機の先がけは、2014年にはやぶさ2と相乗りしたPROCYON(プロキオン)です。地球と月のまわりを月の重力で飛んだ先輩はひてんで紹介しています。

この記事のデータ

METHOD
航路
東京大学とJAXAの運用チームが2026年8月に公開したデータセット(CC BY 4.0)の、地上局の電波の測定から再構成した軌道を使いました。2022年11月16日19時25分から2023年5月17日1時(日本時間)まで5分ごと、地球中心・黄道座標の位置と速度です。 図は2〜3時間ごと、星空のページは1時間ごと(地球・月のそばは5分・1分ごと)に間引いています
分離から最初のデータまで
最初のデータから、噴射なしで地球・月・太陽の重力を受けて逆にたどりました。 分離の時刻(19時27分)で、計算は近地点533km・遠地点37万9479km・傾き30.26°。発表(521km・37万9650km・30.3°)とよく合います
通信が途絶えたあと
最後のデータから、噴射せずに地球・月・太陽の重力だけで飛び続けたとして計算しました。 5月24日の地球への接近(計算で約6万4000km)は、地上の望遠鏡が探査機をとらえた日と合います。光の圧力などは含めていないので、6月へ進むほど大まかです
噴射の大きさ
運用チームの論文の値。論文にない回は、軌道データで噴射の30分前の状態から噴射なしで進めた位置・速度と、噴射の30分後のデータとの差から求めました。
月・太陽・惑星
Astronomy Engine で計算。ズィー・ティー・エフ彗星は JPL の軌道要素から計算しました。

諸元

SPECIFICATIONS
名称
EQUULEUS(エクレウス) EQUilibriUm Lunar-Earth point 6U Spacecraft。こうま座の学名でもある
開発・運用
東京大学、JAXA宇宙科学研究所 日本大学なども参加
打ち上げ
2022年11月16日 15時47分44秒(日本時間) ケネディ宇宙センター39B射点、SLS初号機(アルテミスI)。10機の超小型探査機の1機
形と質量
6Uキューブサット(約10×20×30cm)、10.5kg 太陽電池パドルを広げた幅 約1.46m、発電 約50W
推進機
水レジストジェット推進系 AQUARIUS 大きな噴射用2基・姿勢用4基、水1.22kg、推力約4.9mN、比推力約73秒
観測装置
極端紫外線カメラ PHOENIX、月面衝突閃光カメラ DELPHINUS、ダスト検出器 CLOTH
運用
2022年11月16日〜2023年5月17日(最後の正常な通信) その後、通信は回復していない

出典

SOURCES

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