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COMET INTERCEPTOR / PLANNED MISSION計画中

彗星探査機「Comet Interceptor」の計画

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Comet Interceptor(コメット・インターセプター、「彗星を迎え撃つもの」)は、欧州宇宙機関(ESA)が主導する彗星探査の計画です。親機1機と子機2機の3機で1つの彗星のそばを同時に通り抜け、いろいろな方向から調べます。日本(JAXA)は子機の1機「B1」を担当します。いちばんの特徴は、行き先を決めずに打ち上げることです。地球の外側で待ち、太陽系のはずれから初めてやってくる彗星が見つかったら出発します。まだ飛んでいないので、この記事では発表されている計画と、過去の彗星で「もし待っていたら届いたか」を計算した結果を紹介します。

打ち上げ 2028年8月〜2029年7月(検討中) ロケット Ariane 64(通信衛星と相乗り) 構成 3機(日本は子機B1) 目的地 未定(見つかってから決める)

行き先を決めずに出発する

WAIT AND GO

これまでの彗星探査は、何度も太陽に近づいて表面が変わってしまった周期彗星が相手でした。Comet Interceptorがねらうのは、太陽系のはずれのオールトの雲から初めてやってくる長周期彗星や、太陽系の外から来る恒星間天体です。46億年前の太陽系ができたころの姿を残していると考えられますが、見つかるのは太陽に近づく数か月〜数年前なので、見つけてから探査機を作っていては間に合いません。そこで、先に打ち上げて待っておきます。

  1. 打ち上げて、L2点で待つ

    地球から太陽と反対の方向へ約150万km離れたL2点のまわりで、3機がつながったまま待ちます。待つ期間は数年の予定です(JAXAは最大3〜4年と説明しています)。

  2. 地上の望遠鏡が彗星を見つける

    チリのルービン天文台などの観測で、地球の近くを通る彗星を探します。すれ違えるのは、彗星が地球の軌道の面(黄道面)を横切るとき、太陽から0.9〜1.2AU(地球の軌道のあたり)の場所です。

  3. 出発して、数か月〜数年かけて向かう

    手持ちの推進剤で使える速度の変化は秒速約1,000mです。届く場所にある彗星が見つからなければ、周期彗星に目標を切り替えます。

  4. すれ違いの約2日前に3機が分かれる

    子機B1・B2が親機Aから分かれ、それぞれ違う距離で彗星のそばを通ります。すれ違う速さは秒速10〜70kmです。

  5. データを地球へ

    子機のデータは親機が受け取り、すれ違いのあと最大6か月かけて地球へ送ります。

150万km待つ場所、L2点までの距離。月までの約4倍
0.9〜1.2AUすれ違える場所の、太陽からの距離。彗星が黄道面を横切る点がこの中にある必要がある
秒速1,000m自分で使える速度の変化(今の計画)。以前の計画では約600m

もし、この彗星を待っていたら

WHAT IF

最近話題になった彗星に、L2点で待っていた探査機が届いたかを計算しました。太陽を上から見た図で、黄色の帯がすれ違える範囲(0.9〜1.2AU)、◆が彗星の黄道面を横切る点です。彗星の軌道は、黄道面より上を実線、下を点線で描いています。すれ違う日は彗星の動きで決まってしまうので、出発の日は選べても、その日の地球との位置関係によっては大回りが必要になります。秒速1,000mで足りない場合は、航路を点線で描き、探査機はL2点にとどめています。航路はこの記事の計算で、ESAが選ぶ航路ではありません。

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探査機の航路(計算)秒速1,000mでは届かない航路
太陽を上から見た図 · 彗星の位置は JPL の軌道要素からの計算
彗星黄道面を横切る日太陽からL2点から必要な速度変化すれ違いの速さ判定
ZTF彗星C/2022 E32023-02-121.22 AU0.45 AU秒速1.21km秒速52km△ 少し足りない
紫金山・アトラス彗星C/2023 A32024-06-182.07 AU1.90 AU秒速5.88km秒速46km× 届かない
2024-10-080.48 AU0.53 AU秒速6.78km秒速99km× 届かない
ネオワイズ彗星C/2020 F32020-06-290.33 AU1.30 AU秒速52.8km秒速142km× 届かない
2020-12-032.87 AU3.86 AU秒速46.6km秒速17km× 届かない
3I/ATLASC/2025 N12025-12-081.99 AU1.84 AU秒速38.3km秒速66km× 届かない
ハレー彗星1P(1986年)1985-11-091.80 AU0.85 AU秒速3.79km秒速45km× 届かない
1986-03-100.85 AU1.06 AU秒速1.91km秒速74km△ 少し足りない

1つの彗星は黄道面を2回横切ります(恒星間天体の3I/ATLASは双曲線の軌道で、近日点の前後で横切るのは1回だけ)。色の付いた行が図で描いた点です。必要な速度変化は、見つかった日の60日後から出発できるとして、L2点から直接向かう航路で一番小さい値です。

必要な速度変化(秒速km、直接の航路) 0.6未満0回0.6〜10回1〜22回2〜33回3〜53回5〜107回10以上16回間に合わない26回
1999〜2025年に近日点を通った長周期彗星54個が、すれ違える範囲の近く(0.85〜1.25AU)で黄道面を横切った57回を、同じ方法で計算しました。「間に合わない」は、最初に観測されてから横切るまでが75日に満たなかったものです。

この単純な計算では、直接の航路で秒速1kmに収まる彗星は1つもありませんでした。いちばん惜しかったのはZTF彗星(秒速1.21km)、次がニート彗星(C/2001 Q4、秒速1.80km)です。黄道面を横切る点が地球の軌道のそばにあっても、その日に地球が反対側にいれば、大回りの航路が必要になります。

ESAは、今の計画なら6年の間に行き先が見つからない確率は10%未満と見積もっています。前提はこの記事の計算と違い、これからルービン天文台などが見つける彗星の数や見つかる時期を考えに入れたものです。また、この記事の計算に入れていない、地球や月のスウィングバイを使う航路もあります。それでも、待つ探査機にとって早く見つけることが推進剤と同じくらい大切なことは、この計算からもわかります。

3機が同時にすれ違う

FLYBY

すれ違いの約2日前に、3機は分かれて別々の距離を通ります。核の写真を撮る親機Aは、ちりにぶつかる危険を減らすために少し離れて通り、子機は彗星のガスやプラズマの中を通って、違う場所の値を同時に測ります。1か所で測ると「場所による違い」と「時間による変化」が区別できませんが、3か所で同時に測れば、彗星のまわりの立体的なようすがわかります。

A(親機・ESA)1,000km B1(子機・日本)850km B2(子機・ESA)400km 彗星の核(この縮尺では点) 秒速70km → 点は10秒ごとの位置 1000km
縮尺どおりの図です。距離は設計の基準(ハレー彗星のような秒速70kmのすれ違い)での値で、すれ違う速さや彗星の活動に合わせて変えます。3機が核のどちら側を通るかは模式で、実際の配置は目標が決まってから決めます。
機体担当最接近おもな観測装置
A(親機)ESA1,000km彗星カメラ CoCa、赤外線の撮像・分光 MIRMIS、ガスの質量分析 MANiaC、ちり・磁場・プラズマ DFP-A
B1(子機)JAXA850km望遠・広角カメラ NAC/WAC、水素撮像器 HI、プラズマ計測 PS(磁力計・イオン質量分析器)
B2(子機)ESA400km光学カメラ OPIC、空全体を撮るカメラ EnVisS、ちり・磁場・プラズマ DFP-B2

子機のデータは親機を通して地球へ送ります。

秒速70km設計の基準にした、すれ違いの最も速い場合。前後1,000kmを約30秒で通り過ぎる
約2日前3機が分かれる時期。日本のB1は最接近の約38時間前の予定
約50時間B1が分離してから観測を終えるまで。地上からの指示なしで自分で動く
3機の位置から見たすれ違いのようす(コマの中に入ったときの空、核の見かけの大きさ、尾の向き)は、Comet Interceptorから見た彗星で、5つの彗星と3機を切り替えて確かめられます。

ハレー艦隊と比べる

FROM HALLEY

1986年のハレー彗星には、日本のさきがけ・すいせいを含む6機が向かいました(ハレー艦隊)。いちばん近づいたのはヨーロッパのジオットで、Comet Interceptorの設計の基準の「秒速70km」も、このときのジオットのすれ違いに合わせたものです。3機の最接近距離は、ジオットとほぼ同じです。すいせいは、紫外線で彗星のまわりの水素の雲を撮って、明るさが2.2日の周期で変わることを見つけました。B1の水素撮像器は、その水素の雲をもっと細かく調べる装置で、日本の彗星観測がここでつながります。

核 100km1000km1万km10万km100万km1000万km1億kmB2(計画)400 kmジオット(欧州)596 kmB1(計画・日本)850 kmA(計画)1,000 kmベガ2号(ソ連)8,030 kmベガ1号(ソ連)8,890 kmすいせい15万1000kmさきがけ699万kmICE(米国)3100万km 目盛は1目盛で10倍
横軸は対数目盛です(1目盛で10倍)。ハレー艦隊は実際の最接近距離、Comet Interceptor(点線)は設計の値です。赤は日本の探査機です。
01

水の中の重水素を数える

B1の水素撮像器は、彗星の水から分かれた水素と重水素(重さが2倍の水素)の光を、ガスを詰めた小さな容器(吸収セル)で見分けます。重水素の割合を地球の海の水と比べれば、地球の水が彗星から来たのかを考える手がかりになります。JAXAは2026年7月、紫外線天文衛星「ひさき」が撮った長周期彗星のデータを使って、この小さな装置でも十分に測れることを確かめたと発表しました。

02

太陽風とのぶつかり方

彗星のガスは太陽の光でイオンになり、太陽風に押し流されて尾をつくります。B1の磁力計とイオン質量分析器は、親機・B2と同時に、場所の違う3点で磁場とイオンを測ります。さきがけ・すいせいが遠くから調べた「彗星と太陽風」を、すぐそばで立体的に調べることになります。

日本の子機 B1

PROBE B1

B1は、超小型衛星の規格(CubeSat)で24U、重さ約35kgの小さな探査機です。本体はアークエッジ・スペース、観測装置はJAXAが作ります。推進装置を持たないので、親機から分かれたあとは軌道を変えられません。分かれた瞬間の向きと速さだけで、彗星の850kmのそばを通る道に乗せる必要があります。

項目値
大きさ・重さ24U、約35kg
電源太陽電池パネル 3枚×2翼
姿勢の制御リアクションホイールによる3軸の制御
推進なし(分離後は軌道を変えられない)
観測最接近の約38時間前に分離し、約50時間、地上からの指示なしで観測する
観測装置カメラ2台(望遠 NAC・広角 WAC)、水素撮像器 HI、プラズマ計測 PS(磁力計 MAG・イオン質量分析器 CIMS)
開発本体 アークエッジ・スペース(2022年11月に選定)、観測装置 JAXA。2026年にESAへ納める予定(2024年の発表)

計画の変わり方

HISTORY

Comet Interceptorは、ESAの宇宙望遠鏡Arielと同じロケットでL2点へ向かう計画でした。Arielの打ち上げが2031年後半に延びたため、そのまま待つと完成した探査機を3年間保管することになります。そこで2025年12月、ESAは別のロケットで先に打ち上げる案を認めました。

項目以前の計画今の計画(検討中)
ロケットAriane 6(Arielと相乗り)Ariane 64(静止軌道へ向かう通信衛星と相乗り)
打ち上げ2029年後半2028年8月〜2029年7月
L2点への行き方ArielとともにL2点へ通信衛星を切り離したあと、ロケットがL1点の方向へ送り出し、そこから自分でL2点へ移る
自分で使える速度の変化秒速約600m秒速約1,000m
6年の間に行き先が見つからない確率約20%10%未満(ESAの見積もり)
  1. 提案

    ESAが新しく設けた、短い期間で作る「Fクラス」の枠に提案されました。

  2. Fクラスの最初のミッションに選ばれる

    このころは、2028年にArielと一緒に打ち上げる計画でした。日本が子機を担当する形です。

  3. 正式に採択

    ESAの科学計画委員会が計画を採択し、開発の段階に入りました。

  4. B1の開発の相手が決まる

    JAXAは子機B1の開発・試験・運用の支援に、アークエッジ・スペースを選びました。

  5. ESAとOHBが製造の契約

    欧州の2機(AとB2)をドイツのOHBの体制で作ることになりました。打ち上げは2029年、Arielとの相乗りの予定でした。

  6. Arielの打ち上げが2031年後半に

    相乗りのままだと、Comet Interceptorは完成後3年待つことになりました。

  7. 別の打ち上げ案を承認

    ESAの科学計画委員会が、Ariane 64で通信衛星と相乗りする案を認めました。

  8. 新しい打ち上げ時期を発表

    ESAの担当者が、2028年8月〜2029年7月の打ち上げを検討していると説明しました。使える速度の変化が増え、行き先の候補が広がります。

  9. 水素撮像器の性能を確かめる

    JAXAが、「ひさき」の長周期彗星のデータで、B1の水素撮像器が重水素を十分に測れることを示したと発表しました。

この記事の計算

METHOD
計算のしかた
太陽の重力だけで飛ぶとして、L2点を出発して、彗星が黄道面を横切る点に、その日時ちょうどに着く軌道(ランベール解、太陽を3周する解まで)を、出発日を1日ずつ変えて求めました。そのうち、L2点での速度の変化が一番小さいものを「必要な速度変化」としています。 L2点は地球の位置から太陽と反対へ約150万kmとし、地球と同じ向き・同じ角速度で回るとした。L2点から離れるのに要るわずかな速度は入れていない
出発できる日
彗星が見つかった日の60日後から(行き先を決めて準備する期間の仮定)。 見つかった日: ZTF彗星 2022年3月2日、紫金山・アトラス彗星 2023年1月9日、ネオワイズ彗星 2020年3月27日、3I/ATLAS 2025年7月1日、ハレー彗星 1982年10月16日(1986年の回帰で最初に撮影された日)。分布の図の57回は、JPLに記録された最初の観測日(後から見つかった古い画像を含む)を使った
彗星の位置
JPL Small-Body Database の軌道要素(2026年10月25日に取得)からの2体計算。ハレー彗星は国際ハレー彗星監視計画(IHW)の軌道要素(さきがけ・すいせいの記事と同じ)。 彗星のガスの噴き出しによる軌道の変化(非重力効果)は入れていない。分布の図の対象は、離心率0.98より大きく、2000〜2026年に近日点を通ったもの(SOHO・STEREOで見つかった、太陽をかすめる彗星を除く)
入れていないもの
地球や月のスウィングバイ、黄道面から少し外れた場所ですれ違う航路、イオンエンジンなどの長い加速。 実際の計画はこれらも使って航路を探すので、必要な速度変化はこの計算より小さくなることがある
確かめたこと
ハレー彗星が黄道面を横切るのは計算で1986年3月10日・太陽から0.85AU。すいせい(3月8日)、ジオット(3月14日、0.89AU)がすれ違った時期・場所と合う。 計算のすれ違いの速さ 秒速74km(ジオットは秒速68km、すいせいは秒速73km。探査機の軌道によって変わる)
地球の位置
Astronomy Engine(地球と月の重心)。

諸元

SPECIFICATIONS
名称
Comet Interceptor(コメット・インターセプター) JAXAでの呼び方は「長周期彗星探査計画 Comet Interceptor」
主導
欧州宇宙機関(ESA) ESAの科学計画で、早く作る「Fクラス」の最初のミッション。JAXAは子機B1とその観測装置を担当
構成
親機A(ESA、OHBの体制で製造)、子機B1(JAXA)、子機B2(ESA)
打ち上げ
2028年8月〜2029年7月(検討中) Ariane 64、ギアナ宇宙センター。静止軌道へ向かう通信衛星と相乗り
待つ場所
太陽・地球系のL2点のまわり(地球から約150万km) 待つ期間は数年(JAXAの説明では最大3〜4年)
目標
初めて太陽に近づく長周期彗星、または恒星間天体 見つからなければ周期彗星(予備の候補として73P/シュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星が挙げられている)
すれ違い
太陽から0.9〜1.2AU、秒速10〜70km 最接近の設計値: A 1,000km、B1 850km、B2 400km
データ
すれ違いのあと最大6か月かけて親機から地球へ送る

出典

SOURCES

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