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SAKIGAKE / SUISEI — HALLEY'S COMET

さきがけ・すいせいの旅路

1986年、ハレー彗星が76年ぶりに太陽へ近づきました。日本、ソ連、ヨーロッパ、アメリカは探査機を送り、まとめて「ハレー艦隊」と呼ばれました。日本の宇宙科学研究所(いまのJAXA宇宙科学研究所)は、この機会に初めての惑星間探査機を2機つくりました。試験機として先に飛んだ「さきがけ」と、本番の「すいせい」です。どちらも直径1.4mの円筒形で、質量は約140kg。地球の重力を振り切って太陽を回る軌道に乗った、日本で最初の探査機です。

さきがけ打ち上げ 1985-01-08 04:26 JST すいせい打ち上げ 1985-08-19 08:33 JST ロケット M-3SII 1号機・2号機 質量 約140 kg

ハレー彗星との待ち合わせ

ORBIT

太陽を上から見た図です。2機は地球とほぼ同じ面を、地球と同じ向きに太陽を回ります。ハレー彗星は、この面に対して約18°傾いた軌道を逆向きに回っていて、1986年2月9日に太陽に最も近づきました。その1か月後、太陽に近い側から帰っていく彗星と、2機はほぼ正面からすれ違いました。白い線がハレー彗星、赤がすいせい、黄色がさきがけです。

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すいせいさきがけハレー彗星
位置は概算 · 彗星の尾は模式

ハレー艦隊

HALLEY ARMADA

ハレー彗星に近づいた6機の、核からの最接近距離を比べた図です。ヨーロッパのジオットは核から約600kmまで飛び込んで核の写真を撮り、ソ連のベガ1号・2号は約8,000〜9,000kmを通りました。日本の2機は、彗星のまわりに広がる水素の雲や、彗星と太陽風がぶつかるところを、遠くから調べる役目でした。4つの宇宙機関は「IACG」という会議をつくって観測の計画を分担し、ベガが測った核の位置で、ジオットの狙いを絞り込みました(パスファインダー計画)。

100km 1000km 1万km 10万km 100万km 1000万km 1億km 核 ジオット(欧州) 596 km ベガ2号(ソ連) 8,030 km ベガ1号(ソ連) 8,890 km すいせい 15万1000km さきがけ 699万km ICE(米国) 3100万km 目盛は1目盛で10倍
横軸は対数目盛です(1目盛で10倍)。距離は核の中心からの値です。
探査機最接近(世界時)距離相対速度
ベガ1号3月6日 07:208,890 km79.2 km/s
すいせい3月8日 13:0615万1000 km73.0 km/s(計算)
ベガ2号3月9日 07:208,030 km76.8 km/s
さきがけ3月11日 04:18699万 km75.3 km/s(計算)
ジオット3月14日 00:03約600 km68 km/s
ICE(米国)3月28日約3100万 km—

1986年。日本時間は世界時に9時間を足します(すいせいは3月8日22時05分)。ジオットの距離は資料により596〜605km。

秒速73kmすいせいと彗星がすれ違った速さ(計算)。東京から大阪までを約6秒
2回すいせいに当たったちり。最接近の12分前と20分後で、回転の軸が0.72°傾いた
2.2日すいせいが見つけた、水素の雲の明るさが変わる周期
64m2機と交信するため、1984年に長野県臼田につくられたアンテナ

2機の旅

TIMELINE
  1. さきがけ打ち上げ

    鹿児島県の内之浦から、新しいM-3SIIロケットの1号機で打ち上げられました。地球の重力を振り切って太陽を回る軌道に入った、日本で最初の探査機です。名前の通り、ロケットと探査機の試験も兼ねた「先駆け」でした。1月10日と2月14日に軌道を修正し、2月には磁場を測るための長さ2mのブームとアンテナを伸ばしました。

  2. すいせい打ち上げ

    M-3SIIロケット2号機で打ち上げられました。同じ日、管制は東京・駒場から長野県・臼田の64mアンテナへ移りました。太陽のまわりを約282日で回る軌道で、ハレー彗星との待ち合わせ場所へ向かいます。

  3. 水素の雲を撮る

    すいせいは、紫外線のカメラで、彗星の核から出た水が分解してできる水素の雲(水素コロナ)を撮り始めました。雲の明るさが2.2日ごとに変わることや、12月16日の大きな増光をとらえました。同じ日に軌道修正も行い、最接近の距離を21万kmから15万kmに近づけています。

  4. ハレー彗星が太陽に最も近づく

    太陽から8780万km(0.587天文単位)のところを通過しました。地球からは太陽の向こう側で、観測しにくい時期でした。

  5. すいせい、15万1000kmを通過

    彗星の太陽側を、秒速約73kmで通り抜けました。水の分子がイオンになって太陽風にとり込まれるようすや、彗星のまわりで太陽風が減速するようすを観測しました。最接近の12分前と20分後には、ちりの粒が当たって回転の軸がわずかに傾きましたが、観測は続けられました。

  6. さきがけ、699万kmを通過

    彗星から離れた太陽風の中で、磁場とプラズマの波を測りました。彗星がつくるキロメートル波長の電波を見つけています。このあと3月14日には、ジオットが核のそば約600kmまで飛び込みました。

  7. すいせい、地球へ戻る軌道へ

    小さなエンジンを15回噴射して秒速65m加速し、1992年に地球のそばを通る軌道に乗りました。燃料は1991年2月に尽きました。

  8. さきがけ、地球スウィングバイ

    地球の中心から8万8997kmを通り、地球の重力で軌道を変えました。日本の探査機として初めての地球スウィングバイです。その後も1993年と1994年に地球のそばを通りました。

  9. すいせいの運用終了

    地球のそばを通過して、運用を終えました。燃料がないため、計画していた別の彗星(1998年のジャコビニ・ツィナー彗星など)への旅はあきらめました。

  10. さきがけの運用終了

    1995年に観測データの受信が途絶え、そのあとは電波の信号だけを受けていました。燃料が足りず、1996年のホンダ・ムルコス・パイドゥシャコバ彗星、1998年のジャコビニ・ツィナー彗星への接近もあきらめ、1999年1月に運用を終えました。

ハレー彗星という目標

HOW
01

逆向きに回る彗星

ハレー彗星は約76年で太陽を回る周期彗星です。惑星とは逆向きに回っているので、地球の近くから出発した探査機とは正面衝突に近い形になり、すれ違う速さは秒速70km前後になります。追いついて並んで飛ぶことはできず、一瞬ですれ違いながら測るしかありません。

02

遠くから全体を見る

核のすぐそばに行けば核の形はわかりますが、ちりにぶつかる危険があります。日本の2機は、遠くから水素の雲の広がりや、彗星と太陽風の関わりを測りました。近くと遠くを各国で分担して、彗星のまわり全体を調べたのがハレー艦隊です。

03

深宇宙と話す設備

何億kmも離れた探査機と交信するため、長野県の臼田に直径64mのアンテナがつくられました(1984年)。打ち上げに使ったM-3SIIロケットも、この2機のために改良されたものです。このとき整えた設備と経験が、のちの「ひてん」「のぞみ」「はやぶさ」へとつながっていきます。

日本が次に惑星をめざしたのは、1998年の火星探査機「のぞみ」です。小惑星から試料を持ち帰ったはやぶさも、臼田のアンテナで交信しました。

この記事の計算

METHOD
ハレー彗星
国際ハレー彗星監視計画(IHW)の軌道(JPL 軌道 No.61)で、日付ごとに一番近い時期の軌道要素を使っています。 元の予報との差は角度で約1秒。太陽に最も近づいたのは1986年2月9日、太陽から0.587天文単位
すいせい
打ち上げ(1985年8月18日23時33分 世界時)から最接近(1986年3月8日13時05分49秒 世界時)までを、エンジンを使わない軌道(ランベール問題の解)でつなぎました。最接近は、彗星の太陽側15万1000kmを、相対速度に直角な向きに通るとしています。 計算: 太陽のまわりの周期285日(発表 約282日)、地球を離れる速さ 秒速2.96km、彗星との相対速度 秒速73.0km。1985年11月14日の軌道修正は含めていません
さきがけ
宇宙科学研究所(DARTS)が公開しているさきがけの位置の記録(1985年2月〜1986年2月の13日分)と、発表された最接近(1986年3月11日4時18分 世界時、699万km)の両方にいちばん合う軌道を求めました。 記録との差は16万〜90万km。周期319日(発表 約319日)、彗星の太陽側を通過、相対速度 秒速75.3km(計算)
1992年の地球スウィングバイ
ハレー彗星のあとの軌道は、太陽を6周して1992年1月8日14時08分47秒(世界時)に地球の中心から8万8997kmを通る軌道でつなぎました。 1986〜91年の軌道修正は最初にまとめて入れています(合計 秒速130m)。地球の重力で約42°曲がる向きは、発表されたその後の軌道(0.924〜1.132天文単位、約381日)に合うように選び、計算では0.925〜1.132天文単位・381日
含めていないもの
打ち上げ直後と1985年11月の軌道修正の細かい経過、惑星の重力による乱れ、すいせいのハレー以後の航路

諸元

SPECIFICATIONS
名称
ハレー彗星探査試験機「さきがけ」(MS-T5)、ハレー彗星探査機「すいせい」(PLANET-A)
打ち上げ
さきがけ 1985年1月8日 4時26分、すいせい 1985年8月19日 8時33分(日本時間) 鹿児島宇宙空間観測所(内之浦)、M-3SIIロケット1号機・2号機
形と質量
直径1.4m・高さ70cmの円筒形、さきがけ138kg、すいせい140kg 回転しながら姿勢を保つ(ふだんは毎分6.3回転)。太陽電池で約100W
観測装置
さきがけ: プラズマ波、太陽風イオン、惑星間の磁場 / すいせい: 紫外線カメラ(水素の雲)、太陽風の電子とイオン
最接近
すいせい 1986年3月8日 15万1000km、さきがけ 1986年3月11日 699万km
運用
すいせい 1985年8月〜1992年8月、さきがけ 1985年1月〜1999年1月

出典

SOURCES

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