ソーラー電力セイル「IKAROS」の旅路
IKAROS(イカロス)は、太陽の光が当たるときの小さな圧力を、薄い膜の帆で受けて進む「ソーラーセイル」を、世界で初めて宇宙で実際に動かした実証機です。2010年5月に金星探査機「あかつき」と同じロケットで打ち上げられ、一辺14mの帆を広げて金星のそばまで飛びました。帆には薄い太陽電池も貼られていて、帆で進みながら発電もする「ソーラー電力セイル」の考え方を確かめました。
金星へ、そして太陽のまわりへ
ORBIT太陽を上から見た図です。赤い線がIKAROSの航路、点線が地球と金星の軌道です。打ち上げから約200日で金星のそばを通り、そのあとは太陽を約10か月で回る軌道を飛び続けました。2011年12月より後は、ときどき届いた電波の記録しかないので、軌道は計算による推定です。
光で進む帆
SAIL帆は、厚さ7.5µm(髪の毛の太さの約10分の1)のポリイミドという樹脂の膜です。一辺14mの正方形で、対角は20mあります。本体を毎分20回以上回転させ、四隅のおもりの遠心力で、折りたたんだ帆を少しずつ引き出して広げました。帆の骨組みはなく、回転の遠心力だけで平らに張っています。
| 2010年 | できごと |
|---|---|
| 5月21日 | 打ち上げ。毎分5回転で回りながらロケットから離れる |
| 5月26日 | 帆の四隅のおもり(各0.5kg)を切り離す |
| 5月27〜29日 | 毎分25回転まで回転を上げる |
| 6月2〜8日 | 1次展開。帆が十字形に約15mまで広がる |
| 6月9〜10日 | 2次展開で帆が広がりきり(約20m)、薄膜太陽電池の発電を確認 |
| 6月15日・28日 | 切り離した小さなカメラ(直径約6cm)で、広がった帆と液晶の動きを撮影 |
| 7月9日 | 太陽の光の圧力による加速を確認(1.12mN) |
| 7月13日 | 液晶の反射を切り替えて、燃料を使わずに向きを変える |
IKAROSの旅
TIMELINEあかつきと一緒に打ち上げ
種子島宇宙センターから、金星探査機「あかつき」の相乗りとして、H-IIAロケット17号機で打ち上げられました。
帆が広がりきる
約1週間かけて帆を広げ、帆に貼った薄膜太陽電池で発電できることを確かめました。これで最低限の目標(ミニマムサクセス)を達成しました。
光で加速し、液晶で向きを変える
電波のドップラー効果から、帆が太陽の光の圧力で加速していることを確かめました。続いて、帆の縁の液晶の反射を切り替えて、燃料を使わずに向きを変えることにも成功しました。
金星のそばを通過
金星から約8万800kmのところを通過しました。前の日には、あかつきが金星を回る軌道への投入に挑戦していました。予定の半年の運用を終え、延長運用に入りました。
燃料が尽き、冬眠へ
姿勢を変える燃料がほぼなくなり、帆に日が当たらない時期は電力が足りなくなりました。電力が足りるときだけ目覚め、ほかは眠る「冬眠」をくり返すようになります。
冬眠からの目覚め
軌道と姿勢の動きを予測して探し、目覚めたIKAROSの電波を受信しました。2014年5月には地球から約2億3000万km離れていました。
4回目の目覚めと、最後の電波
4回目の目覚めでは地球から約1億2000万km。5月21日に、地球から約1億1000万km、太陽から約1億3000万kmで受けた電波が最後になりました。5回目の冬眠に入ったあと、電波は届いていません。
運用の終了
電波が届く見込みがきわめて小さいとして、JAXAは捜索を終え、約15年の運用を終えました。
ソーラーセイルのしくみ
HOW光にも押す力がある
光は、ものに当たって跳ね返るときに、わずかに押す力を生みます。地球の近くで太陽の光を1m²で受けても、力は100万分の9N(ニュートン)ほどです。帆を大きく軽くすれば、燃料を使わずに加速し続けられます。
帆の向きで進み方を変える
ヨットが帆の向きで進む方向を変えるように、光を受ける帆の傾きを変えると、押される向きが変わります。IKAROSは、帆の縁の液晶の反射の強さを変えて、燃料を使わずに帆の向きを変えました。
帆で発電する
太陽から遠い木星のあたりでは、光の力も電力も小さくなります。帆一面に薄い太陽電池を貼り、その電力でイオンエンジンを動かす「ソーラー電力セイル」は、遠くへ行くための日本独自の考え方です。IKAROSの経験は、帆の技術や薄膜太陽電池の後継の計画に引き継がれています。
この記事の計算
METHOD- 金星まで
- 打ち上げ(2010年5月20日21時58分22秒 世界時)から金星の通過(12月8日7時39分 世界時)までを、エンジンも帆も使わない軌道(ランベール問題の解)でつなぎました。 地球に対する速さは秒速4.29km、金星に対する速さは秒速3.32km
- 金星の通過
- 金星の中心から8万800kmを通過したとして、金星の重力で約31°曲がる形にしています。 「金星から約8万800km」を中心からの距離と読んでいます
- 通過後の軌道
- 金星のどちら側を通ったかは発表されていないため、金星の重力で曲がる向きと、帆による加速の代わりの「進む向きにかかる一定の小さな加速度」(0.0000008m/s²)を、JAXAが発表した距離にいちばん合うように選びました。 計算: 2014年5月22日 地球から2億2400万km(発表 約2億3000万km)、2015年4月23日 1億2400万km(約1億2000万km)、5月21日 1億700万km・太陽から1億3300万km(約1億1000万km・約1億3000万km)。太陽を約311〜314日で回る軌道
- 含めていないもの
- 金星までの帆の加速、帆の向きの変化、惑星の重力による乱れ 実際の帆による速度の変化は、2010年11月までに約100m/s、2013年8月までに約400m/s(向きを変えながらの合計)
諸元
SPECIFICATIONS- 名称
- 小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」 Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun
- 打ち上げ
- 2010年5月21日 6時58分22秒(日本時間) 種子島宇宙センター、H-IIAロケット17号機(あかつきと相乗り)
- 質量
- 約310kg 帆と四隅のおもりを含む
- 帆
- 一辺14mの正方形(対角20m)、厚さ7.5µmのポリイミド膜 薄膜太陽電池(厚さ25µm)、液晶デバイス80枚、ダストの検出器を搭載
- 観測
- ガンマ線バースト偏光検出器 GAP、ダスト計数器 ALADDIN
- 運用
- 2010年5月〜2025年5月 最後の電波の受信は2015年5月21日
出典
SOURCES- IKAROSの運用結果(宇宙科学シンポジウム 2011年)展開の手順と日付、回転数、光子加速、液晶による姿勢制御、金星通過、累積の加速量
- IKAROSの状況について 2010年7月14日(JAXA)帆の展開と発電、分離カメラ、1.12mN
- IKAROS プレスキット(JAXA)帆の大きさと厚さ、質量、目標
- IKAROS operations ended(JAXA宇宙科学研究所)運用の終了、冬眠、後継の計画
- IKAROS、約15年の運用を終了(マイナビニュース)2015年の目覚めと最後の電波、距離
- IKAROSの冬眠中の軌道と姿勢の推定(ISSFD 2017)2011年12月の通信途絶、冬眠のくり返し
- IKAROS(Wikipedia)打ち上げ時刻(世界時)、2013〜2014年の目覚め、帆の加速の合計
- Astronomy Engine地球・金星の位置計算